−67 とうとう
とうとう、今の家を出る前日の夜になってしまった。
飲み会でも、友だちの家にいる時でもすぐに眠くなってしまうけど、今日は寝たくない。眠たくもない。
親と一緒にいるのが自分にとって良くないことだと気づいて、原付に積み込めるだけの荷物を持ってやってきたこの部屋。
初めは冷蔵庫と洗濯機だけだったこの部屋も、今では少し狭いくらいになった。
日雇いの現場仕事で受け取ったお金を握りしめて電気屋に行って、少しずつ家電を買い集めてきた。
テレビを手に入れた時は涙が出るくらい嬉しかった。
余裕が出てきて、生活に必要不可欠なもの以外も買えるようになった。
ギターやレコード、DVDとか。
自分の「好き」が可視化されていくのが嬉しかった。
布団を敷くスペースだけが残った六畳一間のこの部屋は僕の家というよりも「巣」
会社から歩いて10分の都心、家賃が今の2倍超の部屋に引っ越すことが、大事に大事に「巣」を作り上げてきた自分に対する裏切りのような気がして、許せない自分もいる。
忘れたくない。
引越し前で、部屋でタバコ吸うのもやめているからアパートの前に出てタバコを吸った。
街灯に、さっき出した粗大ゴミが照らされている。
買う時は、捨てる時のことなんか考えもしなかった。
「月の灯り」を聴こうと思ったら、Wi-Fi届かなくて聴けなかった。
BGMにしてストーリーに載せようと思ったのに。
人生そんなもん。
「かっこつけててもしょーないで」
って、桑名正博に言われた気がした。
社会に出るのが怖くて、カッコつけている。
ガワだけが大きくなっていってる気がして情けないな。
でも、武装しないと怖いんです。
ガワに見合う大人になろう。